長勝寺の参道を進んで山門(楼門)を通り、寺を出ました。山門の傍らには、臥龍松の碑があります。樹齢300年の老松でしたが、現在は枯れてしまい、この碑に記憶を留めるのみとなっています。茨城県指定文化財の山門は比較的新しいもののように見えますが、これは修理が施されたからで、当初の状態はこのような彩色のものであったようです。この山門の修復に携わった一色史彦氏は『茨城の古社寺遍路(上)』で、修復解体の際に、名もなき遊女たちの思いがこの門に込められていたことを知り、心を揺すられたと記しています。 「組物は、小さな斗(ます)・肘木(ひじき)という部材から構成されるのですが、その斗のひとつひとつに、びっしりと字が書いてあるではありませんか。 二親成仏、二親成仏、おたい、おかめ、およね……(略) 遊女達はこの苦界に身を沈めながらもなお自分を生んでくれた二親の成仏を祈って、この小さな斗という部材に願いを込めたのです。今で言えば一人五百円ほどの金額。それが積み上げられてできたのがこの楼門なのです。」
(一色史彦著『茨城の古社寺遍路(上)』、建築文化振興研究所、1994年、p.61)
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