情報資源の蓄積と有効活用を図るために、国や自治体等地域の事業としてデジタルアーカイブの構築が行われつつある。現実には、事業予算の限界、人的能力の限界、著作権処理等が壁となり、アーカイブの情報資源を充実させ、維持管理を続けることは容易ではない。
地域のデジタルアーカイブは、博物館や地方刊行物と同様に、その地域に特有の自然・文化等の学習に役立つ多様なデータを集積するものである。この点からは既存の情報資源をデジタル化することに加え、地域の人々の学習活動の成果物としての情報資源が集積され、活用されることに道を拓くことが期待される。
本論では、この具体的な解決策となる支援機能、適用事例について述べる。
皆無に等しい予算、限られた人的資源という条件でも「皆で作り、皆で育てる」アーカイブの運営を実現することが、地域デジタルアーカイブ運営に求められる一つの方向性である。以下の方法を採用することは、その実現の現実解となろう。
●NPOとしてのアーカイブ運営
●支援システムの適用による人力の省力化
●パブリックドメインとしての情報資源の扱い
●学習素材データベース=デジタルアーカイブという展開
素材循環型学習環境「かすみがうら*ネット」注1は、公共事業的にデジタルアーカイブを構築する従来の方法によるのではなく、市民が主体となって、各自が自然環境や地域社会などについての学習を楽しみながら、それぞれの学習の成果物となるコンテンツおよび素材の集積を図る方法で、地域デジタルアーカイブを分散環境の下で協同的に構築しようとする試みである。これがひいては地域の情報・知識を集成し、地域発見・地域理解に役立つ開かれた学習環境となることを目指している。
日本第二の湖・霞ヶ浦(霞ヶ浦(西浦)・北浦・外浪逆浦・常陸利根川)は、周辺人口が多く、水質汚染・環境破壊の危険に常にさらされている。治水・水利によっても自然環境は影響を受けてきた。
この地域では、市民の自然環境保全に対する取り組み意識が高く、いくつもの市民団体がこうした自然環境の学習、自然環境保全の実践的取り組みを行っている。
一例を挙げれば、市民団体によって呼びかけられたアサザ植え付けの運動は、児童生徒の学習活動としても広がりを見せている。こうした自然環境保全活動は、地域と学校が連携した新しい地域学習のあり方、世代を超えた生涯学習のあり方の実践例となっている。
こうした活動を通して生産されるさまざまな調査データ、活動記録などの情報資源は、地域学習の教材もしくは素材として蓄積し、共用されることにより、それぞれの情報資源をお互いに役立て、学習の質の向上に資することができる。
「かすみがうら*ネット」には、その具体的なコンテンツとなる「マッピング霞ヶ浦*」をモデル事例として収録した。今後は、市民・市民団体・学校等、地域の有志に参加してもらい、地域学習支援、地域デジタルアーカイブ構築を行っていく計画である。
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